伝えるには、「熱量」が肝心

筆者が大阪編集教室の生徒だった頃。書くことに熱中していた私は、授業外でも同期を捕まえては自分の文章を読んでもらっていました。
そんな中で、「好きなサッカー選手」の記事を書いた時に、友人からもらった一言が今でもすごく印象に残っています。

「好きなのは伝わってくるけど、よく分からへん」

具体的なエピソードは書いたし、自分が響いた選手の言葉も書いた。文章として「不自然なところもない」と言われたのに、なぜ伝わらないのだろう。
その答えは「冒頭から想いを乗せすぎたこと」にありました。

読者に理解されない原因を知る

読者がついてこられない文章には、「そもそも破綻している」「時系列がややこしい」「言葉遣いが難しい」など、さまざまな原因があります。

その中でも、私が言われた「好きなのは伝わってくるけど、よく分からない」という言葉は、「筆者の行き過ぎた熱量」が原因でした。
構成に破綻はなくても「好き」が先行しすぎる文章は、読み始めた読者がその熱量についていけず、置いてけぼりになるのです。

読み進めてもらうには、読者の熱量も高めていく必要がある。

このことを知れたのは、文章を生業にしてからも大いに役立つ視点でした。

読者の熱量を高めるには

筆者にとって好きなことに対する想いは、いわば沸点に達している状態。
でも、これからその文章を読もうとしている方にとっては、基本的にプラスもマイナスもない「0℃」から始まる。
これが文章の原則です。

では、どのようにすればその熱量を高められるのか。
ポイントは「前提となる状況の整理」と「共感」にあります。

対象となるものが、なぜ良いと思ったのか。
それを理解するためのバックボーンが読者にも伝わっていないと、好きになるキッカケが理解されません。
「時代背景」や「周囲の環境」、「自分の性格」、「身の回りの出来事」、「精神状態」など、キッカケにつながる状況は、できる限り客観性を持って整理しておく必要があります。
誰が読んでも「そういう状況なら、そう感じるのも分かる」という前提がないと、あなたの想いは理解されにくくなるのです。

そして状況整理ができた上で、必要なのが「共感」です。
例えば……、

英語への憧れがある。
ハリウッド映画を字幕なしで観たい。ラジオから流れる洋楽を一緒に歌いたい。でも、英会話スクールに通うのは、金銭的にも体力的にも余裕がない。そして何より勇気が出ない……。

大阪編集教室 受講生作品より、一部改訂して抜粋

こんなふうに心の動きを具体的に書かれると、共感できる方も多いのではないでしょうか。
筆者と読者の重なる部分が増えるほど、読者の熱量は高まっていきます。

「いかにして読者を惹き込むか」
それを考えながら、上手に共感ポイントを作れると、読みごたえのある良い文章になっていくでしょう。


最後に……

今回の内容は、私の実体験から得た学びであるように、「文章力の向上」というのは人から意見してもらうことで気づきを得て、次の執筆に活かすことができる、積み重ねの作業だと思っています。
そのため、誰からも意見をもらわずに独学で文章の勉強を続けるのは、非常に非効率な方法です。

あなたがもし文章力を高めたいという方なら、家族や友人など誰でも構わないので、自分の書いた文章を読んでもらいましょう。
そして、遠慮のない率直な意見をもらうのがオススメです。
徐々に自分の中で気づきが溜まっていき、書けば書くほど進歩していくことでしょう。

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最も不便で最も強い、文章という表現方法

ライターや文章講座の講師をやっていながら言うのもおかしな話ですが、「文章で伝える」ことは、あらゆる表現方法の中で、とても面倒くさいことだと私は思っています。
基本的に時間がかかる。正しく伝わらないこともある。場合によっては本意が伝わらず、何気ない一言の言葉尻を捕らえられて炎上することもあります。

でも、なぜ人は文章での表現をやめないのか。

それは、あらゆる表現の中で「最も心に残る」方法だからだと、個人的には考えています。
「写真」や「動画」といった他の表現方法との違いも見ながら、なぜ文章表現が「心に残る」のかをご紹介しましょう。

1.情報伝達としては最も不便な「文章」

ニュースやトレンドといった速報性が求められる情報を、正確かつ素早く伝えるには、文章は不向きです。最近のネット記事に多い「○○の番組で、あの人がこんなことを言っていた!」のような、テレビのまとめがまさにそう。

番組内で本人がギャグのつもりで言っていたことも、記事では「AさんがBさんに激怒!」のような刺激的なタイトルに変わり、ニュアンスの異なる発信をしているのを見たことはありませんか?
でも、これが数十秒の「動画」の切り抜きならどうでしょう。本人の表情や周りのリアクションも分かり、ギャグにしていることが見えてくるはずです。

または、感動した特定の1つのシーンを伝えたいとき。
それには文章よりも「写真」の方が、見えたこと・感じたことを的確に分かりやすく伝えられるはずです。

つまり、「出来事を正しく伝えるのに優秀なのは動画」で、「1つの場面を切り取るのに優秀なのは写真」なのです。
対する文章は、「情報伝達」にも「1つの場面を伝える」にも、ていねいに書かないと誤解が生まれやすい厄介な手段。
ある程度の機材が必要な写真や動画と違って、誰でも手軽に使えるものですが、正しく扱うには相応のスキルが必要なことが分かります。

2.「文章」の強さは、心に深く刺さること

ただ、こんなにも不便な表現方法なのに、廃れていくことはありません。

その1番の理由が、「最も心に深く刺さる」表現方法だからです。
(※他の表現が「心に刺さらない」という意味ではありません)

例えば、学生時代にもらった先生からの通信簿の一言。小説の中で出合ったオシャレな表現。落ち込んでいる時に知った偉人や有名人の言葉。
そんな文章が、時々あなたの中で突然蘇ることはありませんか。

私が文章を書く時でも、いまだに生徒時代にもらった言葉を思い出すときがあります。
「熱量が高すぎると伝わらない」「当たり前のことを書いても誰も読まない」のような書く心得だけでなく、「あなたの記事を読んで興味が湧いた」という嬉しいことまで。

どんな文章でも、一度心に刺さると、それは一生忘れることはありません。
時にはある人の人生をポジティブだけでなく、ネガティブにも向かわせることがある強力なツールです。
プロとしてはそのことを肝に銘じながら、文章表現と向き合わないといけないなと感じます。

3.表現としての柔軟性も高い「文章

また、先ほどから何度か「不便な表現」という言葉も使っていますが、読者のイマジネーションをかき立てるには最高の手段という一面もあります。

写真や動画だと、出てきたビジュアルそのものが「答え」になりますが、小説などの文章で書かれている内容を想像するのは読者任せ。
固定のイメージはなく、皆さんの脳内で表現の広がりを無限に楽しめることも、文章の魅力だと思います。


最後に……

ものすごくパワーのある表現方法だからこそ、大阪編集教室では「効率よく書く」や「稼げる」という作業的なポイントにはフォーカスせず、受講生の「熱量」や「体温」といった感情の部分を大切にしています。

一人ひとり違う人生を歩んでいるからこそ書ける、あなたならではの文章がある。

学ぶ中で「その人が書く意味」が生まれるよう、これからも個性を活かすことを意識した文章講座を展開していきたいと思います。

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自分の「得意な文章」を知ろう

文章のジャンルは大きく分けると、
〇小説や脚本といったオリジナリティのあるものを作り上げる、「クリエイティブ」文章
〇エッセイやコラムといった自分の想いを伝える、「内的情報の整理」文章
〇お店・人物紹介のような自分以外のものを取り上げて伝える、「外的情報の整理」文章
の3つに分けられると、大阪編集教室では考えています。

この中のどれが自分にとって得意な型なのか。
それを理解するだけで、あなたが書く文章の質が格段に変わります。
各タイプの傾向をまとめましたので、参考までにご覧ください。

「クリエイティブ」文章が得意な方

☑自分の世界で妄想するのが好き
☑物語を見たら、その続きも考えてしまう
☑アイデア(ネタ)が思いついたら形にしたくなる
☑「面白い」と思ったらオリジナルのストーリーを考える

上記のように自分の脳内で何かしらストーリーが思いつく方は、小説や脚本といった「0→1」を作る文章が向いていると思います。

「内的情報の整理」文章が得意な方

☑頭の中でいろいろな心情をつぶやいていることが多い
☑1つの趣味を狭く深く追求している
☑他人の話を聞くよりも自分のことを話すほうが好き

自分の気持ちと向き合っていることが多い方は、エッセイやコラムといった主観的な文章を書くことが向いています。
1つの事柄について深く考えることが多いので、一歩踏み込んだ内容を書くことができ、読みごたえのある文章になる可能性を秘めています。

「外的情報の整理」文章が得意な方

☑目にしたことを説明するのが比較的得意
☑いろいろなことに興味があり、広く物事を知りたい
☑自分の話をするより他人の話を聞くのが好き
☑細かいことによく気づく

周囲のことをよく気にしている方は、お店や他人の魅力に気づける素質があるので、自分の外側の世界を書くことに向いています。
細かいことに気づけるようになると、描写が具体的になるので、モノの魅力がより深く伝わる文章を書けるようになるでしょう。


最後に……

一番はっきりできる判断方法は、一度実際に文章を書いてみて他人に読んでもらうこと
上記3タイプの文章にチャレンジしてみて、「こっちの文章より、こっちの文章の方が読みやすかったな」と読者に言われたら、自分がどの文章に向いているかを徐々に判断できてくるでしょう。

ただ、自分の文章に対して意見をもらうという経験は、なかなか普通の場では作りにくいものです。
大阪編集教室は、そういった時に「文章を読んで、意見をもらえる場所」としても、多くの受講生に利用してもらっています。

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「普通に読める文章」を書く難しさ

今の時代はとにかく情報の鮮度ばかりが優先されていて、無数の「書き手」があふれる世の中になりました。ただそれと同時に、ニュースサイト等で「読みにくい文章」が世にあふれるようになったとも感じています。

ライターは「日本語を書ければ名乗れる職業」であるのは事実です。
ですが、そこに「プロ」と「そうでない方」の線引きは確実に存在します。

今回は、「普通に読める文章」に詰まったプロの技術を「一段落」・「一文」・「一単語」の3つの視点からご紹介します。

<一段落>構成順の工夫を知る

伝えたいテーマ・エピソードを「どの順番で伝えるか」は、読者の印象に大きな影響を与えます。

例えば、シンプルに時系列で伝えると、淡々とした印象になりやすいので、状況を正しく説明するのに効果的です。
逆に、「現在」を書きながら、途中で回想シーンに入って「過去」に戻り、「現在」に戻るといった時系列の場合。これは、現在と過去の対比がより明確になるので、情景がドラマチックに見えてきます。

構成順を工夫することは、読者をどのような心情にしたいのかを考えること。つまり、読者の集中力を高めていく工夫といえます。

<一文>修飾語と被修飾語の関係性を見る

読みやすい文章を書く上で一番難しいと思うのが、「修飾語と被修飾語」の関係性です。
会話だと声の抑揚で表現できますが、文章の場合、この関係性が明確でないと、読解に時間がかかり、頭を使ってしまう文章になります。

例文を作ってみましたので、見てみましょう。

【原文】
特に、こだわりがすごい○○さんが作る料理の中でも、ビーフシチューが美味い。

という文章があった場合、「特に」という言葉は
・「こだわりのすごさ」にかかっているのか
・「ビーフシチューの美味さ」にかかっているのか

不明瞭な文章になっています。
はっきりするには、

【「こだわりのすごさ」にかかる場合】
こだわりが特にすごい○○さんが作る料理の中でも、ビーフシチューが美味い。

【「ビーフシチューの美味さ」にかかる場合】
こだわりがすごい○○さんが作る料理の中でも、特にビーフシチューが美味い。

と修飾したい語句の直近に持ってきてあげることで明確になります。

「どういう順番で単語を置くと、一発で内容を理解してもらえるか」。
単語を上手に並び替える能力も、ライターとしては必要なスキルです。

<一単語>ひらがなと漢字の使い分けに注目する

媒体での決まりがない限り、ライターは普通、ひらがなと漢字を使い分けています。普段何気なく変換してしまう文字も、ひらがなで表現することで柔らかさを出したり、読みやすくなったりするものです。

例えば、

2020年の目標は、様々な場所に赴いて、色んな人に出会うことです。

2020年の目標は、さまざまな場所に赴いて、いろんな人に出会うことです。

という文章だと、下の文章の方が読みやすいと思いませんか?

文章は読みものとはいえ、「読みたくなるか」の第一印象は視覚です
そのため、漢字を使うか、ひらがなを使うか、カタカナを使うか、ライターは「文章全体のバランス」を見るスキルも求められます。

一単語の漢字一つをとっても、ライターのこだわりがあるということを気にしながら読んでみると、文章の違った面白さが見えてくるのではないでしょうか。


最後に……

ライターが書く「文章」は、
・一段落では「読者の集中力」
一文では「文章の理解しやすさ」
一単語では「言葉の持つイメージ」
を意識したテクニックが細やかにちりばめられています。

だからこそ「普通に読める文章」には価値があり、誰にでも書ける文章ではないといえるのです。

日本語を扱える誰もが文章を書けるだけに、絵のデザインと違って、これらのすごさは伝わりにくいものです。文章を学ぶ必要性が、こういったことから少しでも伝われば幸いです。

一単語の細部のチェックまで入る
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文章力を高めるのに、名文は必要ない

「良い文章を書きたければ、名文を読んで書き写せ!」
筆者が文章を学び始めたとき、よくこういうセリフを耳にしました。
その時に思ったのが、「うまい文章を読んで、本当にその『うまさ』に気づけるのか」という疑問。

他の人がたどりつかない類まれな表現・描写がされている文章だからこそ、名文と呼ばれるわけです。となると、いち凡人である私がその文章を読んで書き写したとて、自分が扱える文章の型にはならない。
「自分の中に根づいた文章力」にはつながらないと思ったのです。

では、本も読まない・書く習慣もない私が、どのようにして文章力を高めていったのか。筆者の体験談を基にした方法をご紹介します。

はじめは「書く」にこだわらない

まず気づいたのが、何が「読みやすい文章」で、何が「読みにくい文章」なのか……、そもそもの判断基準がないということです。

自分は理解できているのに、他人には伝わっていないという経験をした方も多いと思います。
でも何がダメなのかと言われると、自分では分からない。
そうなると正直どう直していいのかも分かりませんよね。

同じような悩みにぶち当たった私は、そこで「書くだけじゃなく、いろんな文章をたくさん読む」ことを始めました。しかも、ただ漠然と読むのではなく、この文章はどこか良いのか・悪いのかを考えながら。

そうすることで、
・この文章はここが書けているから上手いんだ!
・こういう順番で書いているから理解しやすいのか!
・あ、前に見たポイントと同じように書いている!
といった感じに、自分の中の判断基準が徐々に増えていきます。

文章力は「書く力」だけでなく「読む力」も鍛えなければいけない。このことに気づけたのは、1つのターニングポイントだったと思います。

読む文章のジャンルは「何でもいい」

では、「読む力」を身に付けていくにはどんな文章を読めばいいのか……ですが、まず言えるのは「名文は不要」だということです。

世間にありふれた「普通の文章」で十分。友人でも知り合いでも会社の上司が書いた文章でも構いません。ジャンルも特に問わず、日記でもメールでもニュース記事でもOK。
ただ1つ、条件としては600字以上の長めの文章であることです。
(※理想は1,000~1,500字程度)

そういった文章の方が、良いところ・ツッコミどころが分かりやすいですし、文章の構成も参考にできます。短い文章だと構成の良し悪しが判断しにくいので、ある程度の段落の数がある文章を読むようにしましょう。

定着した基準を意識して、書く!

そうやっていろいろな文章を読んで判断基準を定着させながら、私は「書く」ことを並行していきました。

「読む」ばかりでは知識だけが先行して、いざ「書く」時に使いこなせない……というのはよくあります。良い道具を持っても、使いこなせる技量がないと宝の持ち腐れになるのと同じです。

ですので、自分の文章の型に落とし込むうえで「書く」ことはとても大切
「判断基準を身に付ける → 実践する」を繰り返せば、文章力は身に付きます。これは私の経験から間違いなく言えることです。


最後に……

独特の表現を用いたほうが味が出る文体では名文を参考にできるので、まったく使えないというわけではありません。
特に小説や脚本など、オリジナリティが求められる文章では、いろいろなヒントになると思います。

ただ、「まず基礎を固めたい」という方は、ご紹介した方法で学んでみてはいかがでしょうか。
「判断基準を身に付ける」一助として、いろいろな方の意見が聞ける大阪編集教室も活用いただけたら幸いです。

書く際のさまざまな視点を得られる
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